【実務歴12年】特許庁・弁理士事務所・企業の知財業務をわかりやすく比較してみた

初めまして。なつと申します。現在事業会社(企業)にて知財の業務に従事しております。

このブログをご覧の皆さんは、知財のお仕事について知りたい方だと思います。

知財実務を行う場所としては大きく分けて、「特許庁」「弁理士事務所」「企業」の3つが挙げられます。業務内容や求められるスキルはそれぞれ異なります。

じつは私はこれまでに、 特許庁 → 弁理士事務所 → 企業 のそれぞれで業務を行ってきました。
それぞれに「向く・向かない」が明確にあり、同じ“知財”でありながら必要なスキルセットも環境もまったく違います。ここでは、3つのキャリアをそれぞれお伝えします。

目次

特許庁キャリア

特許庁での主な仕事内容

特許庁では次のような業務を行いました。

  • 審査業務(特許)
  • 行政官業務

行政官業務はいわゆる国会対応や法対応に代表される業務であって知財業務とは異なるため、ここでは割愛します。

審査業務の具体的な業務内容は次のとおりです。

  • 特許出願に対する審査対応(調査、新規性等判断など。ほとんどの時間をこの業務に従事します)
  • 分類付与(特許分類を付与する大事な業務です)

業務の性質上、「特許法の理解」と「担当業界の深い知見」が強く求められます。

特許庁で働く良いところ

個人的に特許庁で知財業務を行っていてユニークだと感じるポイントは次のとおりです。

  • 未公開案件をのぞき見できる(最先端技術が好きな人間はテンションが上がります)
  • 特許法(意匠法、商標法)の習得スピードが早い(1, 2年目に集中的に叩き込みます)
  • 一人で完結する業務が多く集中しやすい(審査長との協議案件にあたることはありますが、一人前になれば基本的に一人で案件をこなします。)
  • 判断を積み重ねることでロジカルシンキングが鍛えられる(新規性等判断をどうロジック立てるかは、意外とクリエイティブな作業になりがちです。)

特許庁で働く大変なところ

一方、特許庁で働くと大変なこともあります。例えば次のようなポイントです。

  • 特許査定を下すことへのプレッシャー(自分の判断が業界のパワーバランスを決定づけてしまうかもしれない)
  • 案件件数が多い(筆者在籍当時。ノルマがあります)
  • 外部とのコミュニケーションが少なく、視野が狭くなりやすい(服務規程があり、友人との旅行に支障をきたしました)
  • 行政官としての業務にあたると午前様(官僚の宿命です…)

弁理士事務所キャリア

弁理士事務所での主な仕事内容

弁理士事務所では、明細書作成補助等を行いました。

  • 発明発掘、打ち合わせ(私の所属した事務所では当時、企業担当者との打ち合わせに同席させてもらえました)
  • 明細書等作成補助(権利範囲や明細書等の記載内容の決めなど)
  • 中間処理(拒絶理由通知への反論など。特許庁での経験が一番活きる業務です)
  • 海外代理人とのやりとり(海外法は日本法とは異なる落とし穴があります。海外代理人とともに業務を行い、救われた案件もありました)
  • 訴訟案件に関する特許調査

クライアントとのスムーズなやりとりを含め、実務力が非常に磨かれる現場でした。

弁理士事務所で働く良いところ

弁理士事務所で業務を行う最大の魅力は、なんといっても権利化実務対応の多さでしょう。

  • 明細書作成等の実務スキルが爆速で伸びる(自分の日本語文章力に向き合う毎日です)
  • センスと運があれば多様な業界に触れ経験を積むことが可能

また、特許庁とは異なる点で良いなと思うのは下記の点です。

  • クライアントから直接お礼を言っていただける(「ありがとうございます」は一番のモチベーションになります)
  • 自分の実力次第で売上=年収を引き上げ可能(サラリーマンではなかなか向き合えない部分かもしれません)

弁理士事務所で働く大変なところ

とはいえ、弁理士事務所に所属していても大変なことはあります。

  • とにかく忙しい時期がある(クライアントの予算計画等に振り回されます。)
  • 期限管理のプレッシャー(3組織の中では一番プレッシャーの感じる場所でした)
  • 自己責任、年収を上げるには営業力が求められる(実力次第で年収が上がる=実力次第で年収が下がる、ということです)

企業キャリア

企業での主な仕事内容

企業では、研究所や事業部門と連携しながら、幅広い業務に取り組みました。

  • 発明発掘
  • 他社特許調査
  • 権利化戦略・出願方針の策定(出願業務だけでなく他社対応にも気を配るのが企業知財の特徴です)
  • ライセンス・契約交渉(権利の行使だけでなく、他の自他アセットとの交換は可能か、長期のお付き合いのなかで譲れる/譲れない部分は何か、事業部門との連携をしながら交渉します)
  • 訴訟対応(契約交渉の延長で発生することがあります)
  • 経営層への知財関連の提案(単に戦略を伝えるのではなく、自社が戦うフィールドでの‘戦い方’を共有していくイメージです)

また、特許だけでなく意匠、商標、著作権、法務の業務にもかかわるチャンスが多いのが企業でのお仕事の特徴です。

  • 模倣品等対応(著作物を扱う企業ですとこの対応に莫大なリソースを割かれます)
  • 権利侵害対応(商標対応が多かったと記憶しています)
  • 社内調整(知財の対応が必要な部門、営業機密として秘匿とすることが必要な部門、様々です)

■ 企業で働く良いところ

企業で働くと、特許庁や弁理士事務所とはまた異なった体験ができます。

  • 事業の全体を意識できる(ビジネスとは何か、単なる権利化や行使への対策に終始せずいろんな思考実験をする種が転がっています)
  • 社内の信頼関係を築くことで仕事が大きく動く(コミュニケーションを図って仕事をする度合いは一番大きいかもしれません)
  • キャリアの幅(マネジメント・戦略戦術・契約)が広がる(何なら開発をし始めてもよいわけです)

■ 企業で働く大変なところ

良いところの裏返しでもありますが、企業で働くことならではの大変なところもあります。

  • 社内調整・意思決定プロセスが複雑(関係者が多くなる企業ならではです。スピード感は前2組織に劣りました)
  • 事業部門とのコミュニケーションが必要(他人との折衝が負担に感じることがあります)
  • 経営判断に振り回される(スピード感のある企業や社長の一声が強い企業だと、突然案件がポシャることがままあります)

■三者三様、キャリアの「軸」がまったく違う

ここまでそれぞれの業務内容、良いところ大変なところをあげてきました。それぞれオーバーラップしている点はありますが、おおざっぱに特徴をまとめると、

  • 特許庁 → 最先端技術 × 法律。「法」を極める
  • 弁理士事務所 → 主に権利化。「スキル」を極める場所
  • 企業 → 事業を推進するための知財。「ビジネス」を極める場所

といえそうです。

これらからわかるように、3組織はそれぞれ求められる役割が異なります。また、必ず向き不向きがあります。

この記事が皆さんのキャリア選択のお役に立てれば幸いです。

なつ

事業会社勤務。特許庁、特許事務所(現弁理士法人)での勤務を経て企業知財に転身。特許をメインに知財全般に関わる。

MBA(経営学修士、一橋大学)修了。

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