IPランドスケープがむずかしい理由
「IPランドスケープ」の重要性が認識される一方で、その実践において課題を抱える企業は少なくない。その要因の一つとして、特許情報に偏重した分析に終始し、経営の意思決定に資する有益な示唆を導出できていない点が挙げられる。この問題を解決するには、特許の情報を、会社のニュースやお金の動き、新しい論文といった、ほかの情報と同じようにあつかうことが大切だ。それらを共に見て分析することで、まわりの状況がよく分かり、会社の作戦を立てるのに役立つ。
この記事では、ばらばらの情報をまとめて一つの「話の流れ」をつくり、会社の役に立つヒントを見つけるための考え方を紹介する。
「技術の話」と「ビジネスの話」をつなげる
分析をするときは、まず、それぞれの情報がどんなものかを知ることから始める。特許の情報は、会社が「何を」作ったか、という技術の事実をくわしく教えてくれる。特許以外の情報(ニュースなど)は、会社が「なぜ」その技術を作り、「どのように」ビジネスにしようとしているのか、という会社の考えを知るヒントになる。
これまでの特許分析は、「何を作ったか」で終わることがほとんどであった。しかし、会社のトップが本当に知りたいのは、「その技術がビジネスの役に立つのか」「ライバル会社は何を考えているのか」ということである。よって、分析者は、「技術の話」と「ビジネスの話」をわざとつなげてみて、2つの情報の関係を見つけることが大切である。
予想を立ててから調べる
たくさんの情報をただながめているだけでは、意味のある話の流れをつくるのは簡単でなく、何のために調べているのか分からなくなってしまう。そこでお勧めなのが、「まず『こうじゃないか?』と予想を立ててから調べる」というやり方である。
例えば、「ライバルのA社は、うちに競争をしかけてくるだろうか?」という疑問があったとする。
このとき、先に「安い商品で勝負してくる」「すごい新技術で勝負してくる」「見せかけだけで、本気じゃない」といった予想をいくつか立てる。そして、もしその予想が本当なら、どんな情報が見つかるはずかを、特許とニュースの両方で考えておくのだ。
この準備をしてから情報を集めて調べると、どの予想が一番合っていそうか、思い込みではなく、ちゃんと判断しやすくなる。こうすることで、ばらばらの情報が「予想」というテーマでつながり、一つの話の流れになる。
「情報のズレ」は大事なサイン
分析をしていると、特許の情報とニュースなどの情報で、言っていることがちがう「ズレ」が見つかることがある。これはただの間違いや関係ないことではない。会社の「表向きの話」と「本当の動き」がちがうことを示していて、くわしく調べる価値がある、とても大事なサインである。
よくあるズレのパターンは、次の4つだ。
- 潜水艦作戦
特許出願は活発だが、関連する公式発表が少ない。水面下で新規事業等を準備している可能性を示唆する。
- 宣伝作戦
社会で話題のキーワードを公式に発信するが、それを裏付ける質の高い特許出願が見られない。PR戦略や競合への陽動の可能性を示唆する。
- 方針転換作戦
公式発表と、公開タイミングに時間差のある特許情報にズレが生じる。企業の戦略転換の過渡期である可能性を示唆する。
- M&A・協業作戦
新しいビジネスを始めると言っているのに、自社の特許が少ない。提携や買収を検討している可能性を示唆する。
このような「ズレ」に注目すると、その会社のことをもっと深く理解できるようになる。
情報を集めるだけでなく、会社のねらいを読みとる
IPランドスケープを会社の経営に役立てるための大切なポイントは、いろいろな情報を集めて、それらの「つながり」や「ズレ」から、会社の本当のねらいを読みとることである。ここで紹介した考え方は、それを実際にやるときのヒントになる。特許の情報をあつかう人の役割は、ただ情報を集めて整理することではない。バラバラの情報から会社の作戦を分析し、トップが判断するときの役に立つ情報を見つけて教えることにある。

1985年生まれ。K大学大学院理学研究科博士後期課程修了(博士(理学))。国立研究所研究員などを経て、大学教員などに従事。人生のキャリアを考え、企業に転身したところ、配属先が知的財産部で、特許情報分析に従事することになり今に至る。趣味は読書と競馬、新規分析手法の研究。好きなものはSuicaのペンギンと親しい人と酒を酌み交わす時間。

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