トラブル時の交渉力強化のためにすべきこと

目次

はじめに

私は弁護士として働いており、知財分野の業務、特に特許や営業秘密関係の紛争を専門にしています。

本稿では、そういった紛争案件での経験を踏まえて、弁護士に依頼することが企業のトラブル時の交渉力の強化につながる、という私見について書いてみたいと思います。

企業活動を行う上で、取引先などの他の企業とトラブルになるということは、どうしても一定程度発生し得ます。話合いで円満にトラブルが解決すればよいのですが、なかなかそうスムーズにまとまらないことも多いのが実情です。

そのように、トラブルがなかなか解決しないときにわざわざ弁護士にまで依頼して交渉や裁判(訴訟提起)するかというと、「そこまで大事にしたくない」とか、「費用対効果が低い」といった理由で、結局依頼しないというケースも相当数あるのではないかと思います。

しかし、知財を事業の中心としている企業が他の企業とトラブルになったという場合には、弁護士に依頼して、必要に応じて訴訟提起をすることをおすすめします。それは、弁護士に相談することが個別案件の解決につながる以外に、社内の記録化・管理体制を改善することで、今後その企業が技術や知財に関する重要な案件でトラブルになった際の交渉力を強化することにもつながるからです。

以下では、前半でトラブル時の交渉力の強さは、結局、社内の記録化・管理体制による影響が大きいということ、後半でトラブル時に弁護士に依頼することで、社内の記録化・管理体制を改善できるということについて書きたいと思います。

トラブル時の交渉力の強さと訴訟での勝訴可能性の関係

大前提の話になりますが、トラブル時の交渉力の強さというのは、訴訟になったときにどれだけ有利に戦える状況が整っているか、言い換えると、「最終的にそのトラブルが訴訟になって裁判所が判決を下すとなった場合に、どのような結果になると考えられるか」(例えば、製品の製造販売差止めが認められるか、損害賠償請求が認められるか、認められるとしてその金額はいくらになるか)ということによって大きく影響されます。

訴訟になったときに裁判所が自社に有利な判決を下してくれる可能性が高ければ、自社としては有利な条件で交渉を進めることができ、逆を言えば、相手としては、多少不利な条件でも交渉でまとめるインセンティブが生じます。

訴訟で有利な判決を得るために必要なこと

それでは、訴訟で有利な判決を得られるかということはどのように決まるでしょうか。

もちろん実際に有利な事実、事情がどれだけあるかということは重要なのですが、本当に重要なのは、結局、そういった事実、事情があったことを裏付ける資料、証拠があることです。実際にあった事実、事情がどれだけ有利であっても、その事実を裏付ける資料、証拠がなければ、裁判所はその事実を前提にして判断してくれません。

例えば、ある会社との協業を検討するために、NDA(秘密保持契約)を締結した上で、相手に自社の技術を提供したところ、相手が自社の提供した技術を使って製品を販売していた、という事例があったとします。この場合、事実関係だけ見れば、NDAで通常規定されている秘密保持義務等違反に基づいて、また、営業秘密の不正使用として不正競争防止法に基づいて、相手の製品の製造販売差止めや損害賠償を請求できうる事案です。そういったケースで、自社の技術を相手に提供したことを裏付ける資料があれば、非常に有利な証拠となりますが、そのような資料が残っていない場合(例えば、自社の技術を相手に提供するときに手渡しで資料を提供していて、資料を提供したことや相手とのやり取りを示す資料を残していなかったという場合)には、訴訟で製品の製造販売差止めや損害賠償を求めたとしても、裁判所は、証拠がないために、NDAの下で相手に技術情報を提供したという事実を認めてくれず、結果的にこちらの主張が認められない可能性が高くなります。

そのため、適切な資料をしっかりと記録化している、管理して残しているという体制があることは、訴訟において有利な結果を得るために非常に重要になります。特に、相手に秘密保持義務を課した上で技術情報を提供する案件や、逆に相手から技術情報を受領するという案件は後々揉める可能性が比較的高いので、技術情報の提供を含めたやり取りについて記録化しておくことは、非常に重要です。

弁護士に依頼することが今後のトラブル時の交渉力の強化につながる

これまで(前半)の話を簡単にまとめると、「資料の記録化・管理の体制の構築が、訴訟での勝訴可能性を高め、それがトラブル時の交渉力を強化する」ということになります。

それでは、資料の記録化・管理の体制はどうすればできるか。一つの方策が、トラブルになった際に積極的に弁護士に依頼することです。弁護士はトラブルの際に相談を受けると、事実経過についてヒアリングするとともに、その事実経過を裏付ける資料の収集を試みます。具体的には、「そういう事実を裏付けるようなこういった資料はありませんか」、「こういったメールのやり取りはありませんか」といった形で細かく確認します。そういった弁護士とのやり取りを通じて、「普段からこういう資料の記録化・管理体制をとるべきであった」ということを具体的な事案から学ぶことができます。そして、普段の資料の記録化・管理の体制にフィードバックすることで、体制を改善することができます。

特に知財を事業価値の中心に据える企業が弁護士に依頼することで得られる効果は大きいといえます。それは、企業の生命線となる技術や知財に関する資料の記録化・管理の体制を改善につなげることで、今後のトラブル時の交渉力を強化することができるからです。

さらに、訴訟になったということであれば、会社として訴訟対応を経験することで今後他の企業とトラブルになったときに、その経験を活かして効率的に対応できますので、トラブルの解決手段としての訴訟という選択肢のコストを下げることができます。

このように、トラブル時に弁護士に相談することによって、資料の記録化・管理の体制を改善して勝訴可能性を高めることができ、また、訴訟対応の経験を得ることで訴訟という選択肢のコストを下げることもできるため、結果的にトラブル時における交渉力を強化することができます。

最後に

上記のことは、技術や知財を重視する企業にとっては、その重要な技術、知財を守っていく上で特に重要なことであると考えています。

技術、知財関係のトラブルであれば、「費用対効果を考えると弁護士に依頼するか悩む…」という案件であっても、弁護士に依頼することで、重要な技術、知財関係でのトラブル時の交渉力を強化することにつながります。そうすれば、技術、知財を守る強力な武器を手に入れることができ、最終的にはそれが事業価値の向上にもつながると考えています。

水野 真孝

弁護士

大手総合法律事務所にて様々な分野の業務を経験し、現在は知財関連の業務を専門にしている。医薬、化学、ゲーム関連特許の侵害訴訟・無効審判等、営業秘密に関する訴訟、ライセンス契約を主に取り扱っている。

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