【セミナー振り返り】知財キャリアのリアルと多様性:バックキャスト思考と「小さなWill」が導く未来

2025年12月8日に開催された「知財人材のキャリアセミナー」には、多くの若手・中堅の知財パーソンにご参加いただき、誠にありがとうございました。

本セミナーは、GrIPの活動の一環として、佐々木氏(株式会社ANDPAD)のブログ「自分の知財キャリアを自分で掴む」をコンセプトに、参加者が自身のキャリア設計の参考に資することを目指し開催されました。

本稿では、当日の登壇者による議論の要点と、参加者のキャリア形成に役立つインサイトを振り返ります。

登壇者とテーマの概要

登壇者

  • 佐々木氏(株式会社ANDPAD 経営推進本部 知的財産部 マネージャー):大手メーカー、特許事務所、調査会社、そしてスタートアップという多様なキャリアを経験し、現在はフルリモートで知財部門の立ち上げを担当。
  • 藤原 氏(メーカー知財勤務、FujIP弁理士事務所 経営):大学の知財学科で学び、弁理士資格を若くして取得。IPランドスケープ業務を担当しつつ、副業で事務所を経営。若手コミュニティ「知財若手の会」の運営も行う。

佐々木氏は、自身のキャリアに関するブログに基づき、「キャリアに関する3つの質問」をテーマに講演を行いました。この質問群は、未来のありたい姿から逆算してキャリアを考える「バックキャスト思考」を参加者に促すものでした。

1. 「小さなWill」の積み重ねとキャリアのピボット

佐々木氏は、自身が最初からバックキャスト思考で計画していたわけではないと認めつつ、その時々で抱いた「小さなWill(意思)」に従って行動してきたと振り返りました。重要なのは、常に「これでいいのだろうか?」という批判的思考を自分に問いかけ、疑問にぶつかったタイミングでキャリアのピボット(転換)を行ってきた点です。

  • Willの変遷:特許事務所時代は「発明者の言葉にできない発明を言語化する」ことに価値を見出していたが、企業地材に転身後は「会社の戦略を正確に把握した出願がしたい」という戦略への関心にシフト。最終的にスタートアップでは、「地材活動の全てを自分事として手触り感を持ってやりたい」というWillに至った。
  • 「Can(できること)」の増加:若いうちは、置かれた環境で「ひとまずベストを尽くし」、できることを増やすこと(キャンを増やす)が大切であると強調されました. キャンを増やすことは、いつか来るチャンスのための準備であり、ピボットの幅を大きくします。
  • 過去の経験の意義付け:過去のキャリアは「後で決めればいい」ものであり、自身が振り返って意味付けをすることで、それがその後のキャリアで必要なものになると説明されました。佐々木氏自身の経験(プログラマー、特許権利化)も、現在のスタートアップでの地材部門立ち上げに役立っているとのことです.

2. 多様なキャリア環境のリアル

登壇者は、企業地材部(大企業)、特許事務所、スタートアップ地材部の3つの環境について、それぞれの特徴を分析しました。

キャリア環境メリット(傾向)デメリット/課題(傾向)
特許事務所1人で黙々と仕事をするのに向く。大企業より働く裁量が大きく、ワークライフバランスを取りやすい(育児など)、成果と年収の相関が強い.事務所によって裁量の幅が異なる.
大企業地材部安定性が高い. チームで働く、仕事が自分だけで完結しない経験が得られる.業務が固定化されがちで、新しいことへのチャレンジがしづらい. 努力と報酬が必ずしも相関しない(報酬テーブルが年齢層に紐づく).
スタートアップ地材予測不能な状態を楽しめるマインドや、新しいことをやりたいマインドを持つ人に向いている. 短期間で集中的に経験を積むことで成長機会が多い. 地材活動の全容に携われる手触り感がある。大企業からの転職では給与が減る可能性がある(市場価値への投資と捉えるべき). 臨機応変なアジャイルな対応力が求められる.

佐々木氏は、大企業で活躍するよりも、「一見すると大企業では扱いにくい、はみ出し者的な人」がスタートアップでは活躍できる可能性があるという見解を示しました。

3. 情報の非対称性を打ち破る:コミュニティと対話

キャリアの意思決定において、情報の非対称性を解消するための積極的な情報収集が不可欠だと強調されました。

佐々木氏は、自身の若手時代には受験機関での人脈作りや人材エージェントへの登録など、できる限りのことを行ったと述べました。

しかし、現在ではSNSや、「知財若手の会(千沢若)」やSuIPのようなコミュニティを活用し、具体的な企業の働き方や、ベンチャーキャピタルの知財担当者といった新しいキャリアモデルの情報を得ることが非常に効果的です,,。

また、登壇者からは、仕事とは関係なく腹を割って話せる「飲み会」のような場を通じて、Willやキャリアの「青臭い話」を共有し、壁打ちをすることが健全なキャリア形成につながるという意見も出ました。

4. 生成AI時代の若手に必要な経験

生成AIの登場により、一部の泥臭い実務経験が不要になる可能性が議論されましたが、佐々木氏はハードスキルが一切不要になるわけではないと強く反論しました.

  • ハードスキルの本質:AIを効果的に使いこなす、つまり「適切な設計図を描く(プロンプトを書く)」ためには、依然としてクレームを立てる能力など、ハードスキルの本質的な理解が必要です。
  • 集中的な経験:若手は、スタートアップなどで早期審査を積極的に活用し、権利の創造から活用までを短いサイクルで集中的に経験すべきです。
  • 失敗の意義付け:人間がAIと違ってできることは「意思決定」と「意義付け」であり、失敗や「悔しい思い」といった実務を通して、意義付けをする経験が、若手の人間的な成長に不可欠であると強調されました。

最後に

本セミナーを通じて、キャリアの正解は一つではなく、常に変化する環境の中で「小さなWill」に忠実に、できることを増やしていく(Canを増やす)ことの重要性が再認識されました。

GrIPでは、今後も知財人材の情報難民を減らすべく、キャリアに関する情報発信やセミナーを企画してまいります。今回のご参加が、皆様のキャリアを振り返り、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

バナー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次