はじめに
知財情報分析は、データやツールだけで完結するものではありません。
分析の目的設定、情報の取捨選択、着眼点の置き方、そして結果をどのように解釈し、伝えるか。こうした要素の多くは、実案件を通じて培われる経験に支えられています。
一方で、分析業務は案件ごとに担当者が完結しやすく、得られた知見や判断の背景が個人に留まりやすいという側面もあります。分析力をいかに属人化させず、組織として蓄積・共有していくかは、多くの組織に共通する課題といえるでしょう。
本稿では、NGB株式会社のIP総研において取り組んでいる「IPL研究会」という社内勉強会の仕組みを通じて、分析ナレッジを組織に残していくための実践について紹介します。
IP総研という組織と分析業務
IP総研は2001年4月、NGB株式会社の調査部門と情報サービス部門の統合により設立された組織であり、同社の一部門です。現在は、機械・自動車、電機・通信、化学・医薬・バイオといった技術分野別の調査グループと、調査品質を担保する事務グループで構成され、約30名の専門アナリストが在籍しています。
侵害防止調査(FTO調査)や出願前調査、無効資料調査、訴訟調査といった権利化やリスク対策のための調査業務に加え、事業戦略への活用を目的とした技術動向調査や知財情報分析・解析といった分析系業務への依頼も増えています。こうした分析業務では、案件を通じて得られる判断や工夫そのものが、重要な知見となります。
分析ナレッジが属人化するという課題
分析業務では、
- なぜその切り口を選んだのか
- どのような仮説を立て、その仮説をどのように検証していったのか
といった思考の過程が、成果に大きく影響します。
しかし、こうした判断の積み重ねは、最終的なアウトプットには十分に表れず、案件完了とともに担当者の中に留まってしまうことも少なくありません。この状態が続くと、分析の再現性を高めたり、組織全体として分析力を底上げしたりすることが難しくなります。
IP総研でも、分析系業務が拡大する中で、分析ナレッジをいかに共有し、次につなげていくかが重要なテーマとなってきました。
IPL研究会という社内勉強会の仕組み
こうした課題意識のもとで立ち上がったのが、IPL研究会です。
IPL研究会では、2週間に1回のペースで社内勉強会を開催し、実際の分析案件に基づいて、担当者が主に調査手法を紹介しています。これまでに80回ほど社内勉強会を開催してきました。
勉強会では、分析結果そのものだけでなく、
- 分析の目的設定
- 仮説の立て方
- 途中での判断や修正
といったプロセスをできる限り言語化して共有することを重視しています。
取り上げる題材は、必ずしも分かりやすい成果が得られた事例に限りません。当初の想定とは異なる示唆が得られたケースや、振り返ると別の切り口も考えられたケースなども、積極的に取り上げています。
勉強会の場では、補足的な意見や質問が自然と出てくるようになり、分析設計の考え方や判断のポイントについて、担当者以外の視点も取り込まれるようになりました。結果として、過去の事例を参照しながら分析を進める場面が増えるなど、分析の再現性や説明の質の向上につながっていると感じています。
勉強会を支える運営の仕組み
IPL研究会の特徴は、勉強会そのものだけでなく、それを支える運営の仕組みにもあります。
運営メンバーを中心に、四半期ごとにそれまでに対応した案件を振り返り、その内容を踏まえて勉強会で取り上げる題材を選定しています。
良い分析や示唆に富む取り組みが、担当者個人の中に留まってしまわないよう、成果の分かりやすさに限らず、分析の設計や仮説設定に工夫があった案件にも目を向けています。
部門内の勉強会に留まらない取り組みとして
IPL研究会を運営する中で、分析ナレッジの共有は一つの勉強会に閉じた課題ではないことも見えてきました。NGBにはIPL研究会以外にも、部門ごとにさまざまな社内勉強会が開催されてきましたが、それぞれが部門内で完結しているケースが多く、他部門では「どのような勉強会が行われているのか分からない」「参加してよいのか判断しづらい」といった共通の課題がありました。
こうした状況を受けて、IPL研究会の運営に関わる立場から、勉強会という取り組み自体をより社内に開いていく必要があると考えるようになりました。
そこで、社内で行われている各種勉強会の情報を一か所に集約し、部門を超えて内容や開催状況が分かる仕組みを提案しました。その結果、これまで参加が限られていた勉強会にも他部門のメンバーが参加するようになり、以前と比べて部門横断での参加者数は大きく増えました。
最近では、韓国や中国の企業から、日本におけるIPランドスケープの取り組みについて問い合わせを受ける機会が増えてきました。昨年度はこうした海外企業に対して、IPランドスケープに関するセミナーを行う機会もありました。
海外企業との対話を通じて得られる視点や課題意識は、社内での議論にもフィードバックされ、分析の進め方を見直すきっかけにもなっています。
分析ナレッジを次につなげていくために
今後は、社内勉強会の運営に加え、IPL研究会の運営チーム内で分析に関する独自の研究テーマを設定し、継続的に検討していく予定です。実案件から一歩引いた視点で分析のあり方を考えることで、日々の業務にも還元できる示唆を得ることを目指しています。
分析力を属人化させず、組織として育てていくことは、一朝一夕で実現できるものではありません。
実案件を通じて得られた知見を振り返り、勉強会で共有し、次に活かす。その地道な積み重ねこそが、分析の質を高めていくと考えています。
IPL研究会が、分析に真摯に向き合う人が集い、試行錯誤できる場を提供していけるよう、運営に関わる一人として、今後も工夫を重ねていきたいと思います。

NGB株式会社 IP総研 研究員
2020年より日本技術貿易株式会社(現・NGB株式会社)IP総研に入社
製造業や通信事業の分野において、侵害防止調査や無効資料調査といった特許調査業務に従事
現在は同分野におけるIPランドスケープを中心とした事業分析や技術開発戦略・知財戦略の策定に従事
2023年に知的財産アナリスト(特許)に合格
特許検索競技大会2025(一般財団法人工業所有権協力センター主催)電気部門 ゴールド認定

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