33歳弁理士のキャリアの振り返り

はじめに

この記事では、大学生や弁理士受験生、知財の若手の方等に向けて、私がこれまで知財のキャリアを通じてどう考え、どう行動してきたかを述べます。ただし、私のポジショントークが含まれています。

大学について

地元にある北海道大学の大学院まで行き、6年間化学を勉強しました。物理の方が学問として興味があったのですが、就職先の多さや男女比のバランスを考えて(少しは青春もしたかったので)化学を選びました。

当初は薬品や日用品に使われる新しい化合物を合成したいと思っていました。しかし、飲み会が多くて楽しそうという軽い理由で、友人と一緒に物理化学系の研究室を選んでしまいました。

就活について

就活が本格化するまで、将来のことをあまり考えていませんでした。大学の4年間と大学院の1年間で遊び呆けていたあとに、周りが就活のムードになりやっと色々と情報収集を始めました。

地方出身で世間知らずだった私は、五大商社や広告代理店の存在すらよく知らず、ドコモやトヨタに就職するといっても、地元の販売代理店で接客しているようなイメージしか持っていませんでした。とにかく知識がなかったので、いろんな業種・職種の説明会に参加したり、エントリーしたりしました。調べていくうちに、メーカーの研究所や工場で地方勤務(普通の化学系の就職)をするよりも、東京でバリバリに挑戦してみたいと思うようになりました。

そうして情報収集を進める中で、以下の理由から知財を専門にして弁理士として働くのは自分にぴったりだと思いました。

  • 東京で働ける
  • 収入が青天井
  • 独立開業しやすい
  • 理系のバックグラウンドを活かせる

そうは思ったものの、以下の理由で、リスクを考えると新卒では特許事務所よりも企業知財部に行く方が安全だと思いました。

  • 企業だと弁理士資格に合格できなくてもさほどキャリアにマイナスがない
  • 知財部から特許事務所への転職の方が、特許事務所から知財部への転職よりも難易度が低い
  • 企業だと配置転換によって生産技術や研究開発、技術営業等の他の職種へのシフトがしやすい
  • 企業だと仕事ができなくてもある程度の収入が確保されている一方で、特許事務所は歩合制である

幸運にも、新卒では、縁があった化学メーカーに入社することができ、知財部に配属されました。

弁理士について

弁理士資格の良さとして上記した、収入面や勤務地等の点は、今も感じています。また、弁理士の実務修習を通して同期合格の優秀な友達ができたのも大きいです。加えて、弁理士資格があれば、私のように海外でチャレンジをしたい場合にもチャンスを得やすいと思います。また、事務所次第ですが、フルリモート(他県や海外からも可)でワークライフバランスを重視した働き方等も可能にしてくれるのも弁理士資格の良さだと思います。

今振り返っても、弁理士試験に挑戦して本当によかったと思います。試験勉強を始めたのは、先に述べたような就職活動を終えた後の、大学院2年の1月ごろでした。大学院のときの卒業旅行を計3回(アメリカとイタリアとフィリピン)に行き、預金を使い果たしたため、予備校に通わずに過去問と四法対照だけで勉強を進めていました。しかしながら、論文試験の過去問を解いたときに、独学では論文試験の突破は無理だと悟り、結局社会人1年目の中盤くらいから親から借金をしてLECの論文試験用の講座を受講しました。短答対策も含まれるコースは、数万円高かったので選びませんでした。

社会人2年目のときに受験をして短答試験で合計44点取ったのにも関わらず、商標が3点で足切りになったのはかなりショッキングでした。落ちた年は弁理士試験の勉強を一切やめました。短答試験で44点を取り、論文試験も講座で対策済みだったので弁理士用の勉強のタイパがとても悪いと思ったからです。代わりに、プログラミングや英語の勉強をしていました。FX取引を自動で行うプログラムを作って試していましたが、一日で5万円損を出してしまい、その後は稼働をやめました。転職もしたかったので、その間にTOEICを500点台から800点台にして、自動車メーカーへの転職も決めました。

そして、年明けから勉強を再開して、令和元年の合格者になりました。落ちた年に使っていた教材で忘れていたことを思い出すことがメインで、特に予備校には通いませんでした。代わりに、口述試験対策としてXでつながった人とカフェに集まって練習しました。

これまでのキャリアについて

これまで、化学メーカー知財部で2年、自動車メーカー知財部で2年、日本の特許事務所で3年、オーストラリアの特許事務所で1年働いてきました。

弁理士を取ると決めたときから独立開業を目指し、その方向でキャリアを積むように意識してきました。具体的なプランとして、知財部3年+事務所3年で独立開業したいと思っていましたが、知財部を2社経験したり、知財部で計4年を費やしたりと必ずしもプラン通りに進んでいません。

1社目の化学メーカーの知財部では、例えば、明細書の書き方を体系的に教わることができとてもよい経験をさせていただきました。しかしながら、手隙の時間が多く、実務経験を積むという点では少し物足りなく感じ、縁があった自動車メーカーに転職することにしました。

2社目の自動車メーカーの知財部では、対照的に、やる気さえあれば比較的なんでもやらせてもらえる環境で様々な経験をさせていただきました。様々な国での出願権利化の業務の他に、権利活用の仕事も担当させていただくことができとても充実していました。その後、3社目の特許事務所で仕事ができる機会をいただけたので、いずれ特許事務所に行きたかったのもあり転職を決めました。

3社目は、当時設立4年目で勢いのある特許事務所(以下JP事務所)に転職しました。そこで働くことは、急成長中の事務所の経営者と近い距離で仕事をする刺激的な経験でした。また、担当した案件も、中小スタートアップ、大企業、大学等の様々な顧客について、情報処理、構造等の色々な分野を担当できたので貴重な経験となりました。なお、こういった経験はできなさそうだなと思っていたので、大手事務所に行くのは消極的でした。

4社目は、オーストラリアの特許事務所(以下AU事務所)で働きはじめました。AU事務所を知るきっかけとなったのは、JP事務所にいたときに、AU事務所のパートナー達を紹介してもらい、シドニーにあるAU事務所で場所だけ借りて、JP事務所の仕事を3か月間リモートワークしていたことです。AU事務所では、日本の顧客対応に加えて、オーストラリアおよびニュージーランドでの特許・意匠・商標の出願や権利化業務を担当しています。また、オーストラリア弁理士の要件として、法科大学院でオーストラリアとニュージーランドの知財の単位を取得する必要があるので、シドニー工科大学の知的財産権法修士のコースを受講中です。

なぜオーストラリアとよく聞かれるのですが、その理由は以下の通りです。

  • シドニーが好きなこと
  • 既に就職先の当てがあったこと
  • オーストラリアが英語圏であること
  • 欧州や米国は既に参入している優秀な日本人が多くレッドオーシャンのように感じる一方で、オーストラリアと日本の弁理士のダブルライセンスは、ほぼいない(おそらく世界にまだ二人?)ので差別化がしやすそうだったこと
  • オーストラリアの弁理士資格は日本に住んでいても維持ができる(例えば、シンガポールの資格は国外にいると維持ができなかったと思います?)こと

しばらくは、日本とオーストラリアの実務を軸にキャリアを築きたいと思っています。

最後に

この記事では、キャリアに関して私がどう思って行動したのかを重視して書きました。これからキャリアを考える方の参考や気づきになれば幸いです。

小林 佳介

就職活動の時期までこれといって何もしてこなかった地方理系大学出身の私は、就職活動をきっかけに弁理士に興味を持ち、知財の道を歩み、今はオーストラリアで働いています。

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