はじめに
ピクシーダストテクノロジーズという大学発スタートアップの創業メンバーとしてジョインし、その後、人事、広報、法務といった非知財領域の責任者を務めました。
会社という大きな枠で捉えると、「知財」というものはとても小さいパーツでありながら、事業を成長させるために不可欠なキーパーツであることを認識しました。
スマートフォンが発売される前に知財業界に飛び込み、今は生成AIと向き合っています。
そんな私のキャリアを振り返り、改めて、自分の「キャリア哲学」を言語化したいと思います。
私の仕事感
新規性のある人になりたい
僕の知財キャリアは、大学院に進学し、弁理士資格の取得を目指したことから始まります。
大学時代、決して成績の良くなかった僕は、大学の同期と競争しても自分が輝く未来を描くことはできませんでした。
弁理士資格の取得を目指したきっかけは、「周囲に弁理士資格の取得を目指している人がいなかった」からです。
弁理士の資格を取得した後、大手特許事務所(協和特許法律事務所)に転職し、大企業の明細書作成業務では飽き足らなくなり、ロシアの知的財産制度に関する書籍の執筆に関わりました。
その後、協和特許法律事務所から小規模特許事務所(グローバル・アイピー東京特許業務法人)に転職し、アメリカ、インド、ロシア、ASEANを飛び回りました。
2016年頃からは、スタートアップ企業からの特許相談を受けるようになりました。
特許庁も特許事務所の弁理士も「スタートアップ」と言っている人が数えられる程の時代です。
僕の顧客の1社が現職(ピクシーダストテクノロジーズ)でした。
こうやって振り返ってみると、「周囲との相違点を作り続けたキャリア」と言えそうです。
仕事の評価は顧客の仕事
大手特許事務所では、日本の大企業の日本出願及び外国出願、さらに外国企業の日本出願(いわゆる外内案件)を担当していました。
このとき、とある日本のクライアントから「担当から外してくれ」と言われたことがあります。
僕自身は、「そのクライアントから評価されている」と感じていたので、青天の霹靂でした。
「仕事の評価は顧客が下す。」
このときの経験が今の僕の仕事上の価値観の源泉になっています。
【参考】ToreruMedia「スタートアップに必要なのは美しい「知財戦略」より、何もかも拾い切る「覚悟」だった。(ピクシーダストテクノロジーズ 木本&片山先生)あしたの知財 Vol.09」
正しいことより楽しいことを
僕の座右の銘は、「正しいことより楽しいことを」です。
漫画「宇宙兄弟」で描かれるとあるシーンの言葉です。
「正しさ」は他人が決めるものですが、「楽しさ」は自分で決めるものです。
「自分がなすべきことは、自分で決める」と捉えることができます。
新しくて、ワクワクする体験。
報酬面では懸念があっても、それを補って余りある経験値が得られる。
そこに喜びを感じてキャリアを選択してきました。
あるとき、僕はピクシーダストテクノロジーズのCEOである落合陽一(以下「落合さん」)と一緒にインタビューを受けたことがあります。
2時間ほどのインタビューが終わりに近づいた頃、特許庁の方が最後の質問を落合さんに投げました。
どうして木本さんを創業メンバーに誘ったんですか?
面白そうだから
即答で彼はそう答えました。
妙に嬉しかったのを覚えています。
スタートアップで働くということはRPGみたいなものだ
「スタートアップで働くということはRPGみたいなものだ」。
これが僕の持論であり、心の支えとなる哲学です。
僕のキャリアは、弁理士試験を目指したときも、弁理士に合格して大企業を飛び出すときも、大手特許事務所から小規模な特許事務所へ転職するときも、そしてスタートアップにジョインするときも、その源泉にはネガティブな感情(劣等感や危機感)から生まれた強烈な推進力があります。
若い頃は、他人と比較することも多かったですが、年を重ねる毎に、昨日の自分との差別化を意識するようになってきました。
「自身のレベルアップに喜びを感じて生きている」と言い換えることができます。
まるでRPGで経験値稼ぐように仕事の世界を歩くのです。
どんなに強い敵であっても、自身のレベルが上がればその敵は弱者になります。
過去に強いと感じていた敵とのバトルから受ける刺激は、レベルと反比例して弱まります。
船を手に入れ、新しい街を目指して大海に繰り出す。
そこで新たな強敵が待っている。
その強敵を倒して、さらに先に行く。
これが、RPGの醍醐味であり、キャリアの本質だと思っています。
そのようなマインドセットで構えていたからこそ、創業期から未経験の契約業務に立ち向かったし、人事責任者はどんなに辛いことがあってもやり切ることができたし、広報責任者は二つ返事で引き受けることができました。
経営に関与する機会も得て、視座を上げることができました。
僕がそれまで広いと思っていた地上は、経営という高所から見ると、また違った風景でした。
むすび
知財業界にも生成AIの暴風が吹き荒れています。
生成AIをチャンスと捉えるポジティブな人もいますが、僕は、「これまでの仕事が奪われる」というネガティブな側面を感じています。
そして、この「ネガティブな側面」は、僕にとって、変化のバイアスになります。
変化の先に待つのは、自分のレベルアップと、生成AIよりもさらに強い敵です。
これをただただ繰り返す。
これが僕のキャリア哲学です。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 知財・法務・広報グループ グループ長 弁理士
株式会社リコーにて複写機を中心とした電気・機械分野の権利化業務に従事したのち、
特許事務所を経てピクシーダストテクノロジーズ会社に知財マネージャとして参画。知的財産業務及び契約業務の実務及びマネジメントに従事。

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