IPランドスケープ実践に必要なビジネススキル|まず何から始めるか

「せっかく作ったIPランドスケープの報告書が、会議で説明したきり、誰の机の引き出しで眠っているんだろう…」

こんな経験、ありませんか?特許庁の定義によれば、IPランドスケープは単なる情報分析ではありません。経営・事業情報に知財情報を取り込んだ分析を実施し、その結果を経営者・事業責任者と共有すること。つまり、分析結果を武器に相手の意思決定をより良い方向へ導く、社内コンサルティング活動なのです。

これからIPランドスケープに挑戦する、あるいは既に取り組んでいるものの成果に繋がらないと感じている若手・中堅の知財部員の皆さんへ、確かな一歩を踏み出すための方法を提案します。

「正しい分析」だけでは、人は動かない

IPランドスケープの成功を考えるとき、私たちはつい分析手法や論理的思考といったスキルに目を向けがちです。仮説思考やロジカルシンキングは確かに不可欠な武器ですが、最も重要なのはその武器を「誰のために、どう使うか」という視点です。

情報需要者ファーストで行こう

どんなに論理的に完璧な分析も、それを受け取る相手の課題や関心事に沿っていなければ行動には繋がりません。必要なのは、自分の伝えたいことではなく、相手が聞けば役に立つこと、相手が今まさに悩んでいることを起点に考える姿勢です。

あなたの鋭い分析は、相手を論破するための槍ではありません。相手が困っているパズルの最後の1ピースを見つけ出し、そっとはめてあげるイメージ。「そうそう、これが欲しかったんだ」という腑に落ちる気づきを生み出して初めて、あなたの分析は組織の力へと変わるのです。

信頼という「打席」を獲得する

優れたスキルを持っていても、それを披露する打席に立たなければ成果は生まれません。特にまだ実績が十分でない若手・中堅層にとって、この打席に立つこと自体が最初のハードルです。

日々の業務で信頼を積み上げる

その答えは、意外にもIPランドスケープ業務の外にあります。まずは日々の通常業務で、直属の上司の期待を確実に超える成果を出し続けること。「この担当者に任せておけば大丈夫だ」という揺るぎない信頼を勝ち取ることが、全てのスタートラインになります。

いきなり全社戦略レベルの大きなテーマに関わろうとするのではなく、まずは足元の信頼という土壌を固める。一見遠回りに見えるこのアプローチこそが、新しい挑戦をするための最も確実な道筋です。

タイミングを制する者が価値を生む

見落とされがちなのが、タイミングの重要性です。上司や事業部門の意思決定カレンダーを把握し、その手前で間に合う形でアウトプットを設計する。どれほど優れた分析でも、会議の後に届けば価値は半減してしまいます。

「良い球」は自ら生み出す

信頼を得て打席に立ったとしても、次の壁が待っています。事業部から投げられる依頼という球が、必ずしも打ちやすい良い球とは限らないのです。

受け身を捨て、ニーズを探りに行く

「とりあえず競合の動向を調べて」「何か面白い技術ない?」といった漠然とした依頼は、打ち損じしやすい癖球です。相手自身も知財情報で何ができるのかを具体的にイメージできていないことが多いからです。

この状況を打開する鍵は、受け身の姿勢を捨てることです。依頼を待つのではなく、こちらからニーズを探り、提案する。普段の業務や他部門との会話の中から課題の種を見つけ、「そのお悩み、特許情報を分析すれば何かヒントが見つかるかもしれません。試しに少しだけ調査してみませんか」と、小さなスコープで提案してみる。

この組織内マーケティングとも言える能動的なアプローチによって、自ら芯で捉えやすい良い球を生み出すことができるのです。

今日できる最初の一歩

IPランドスケープは、人と組織の意思決定を前に進める営みです。論理的な分析と、組織の人間的な側面への理解。その両方が揃って初めて、成果は生まれます。

今日できる一歩は、意思決定の予定を一つ聞きに行くことです。その場で「この判断をより良くするために、どんな情報があれば安心できますか」と尋ねてみてください。あなたの分析力と提言力は、その質問から最短距離で価値に変わります。

一歩ずつ、着実に。小さな成功を積み重ねながら、組織にとって欠かせない存在へと成長していくことを願っています。

塩谷 綱正

株式会社イーパテント・アクティス代表取締役

2006年、本田技研工業株式会社に入社。大型樹脂部品の生産技術開発に携わる。管理部門へ異動後、技術開発の効率化手段として特許情報分析に着目。複数の情報ツールを導入し、技術開発部門の数百名へ普及させる。デロイトトーマツリスクアドバイザリー合同会社勤務を経て、2024年5月、株式会社イーパテント・アクティスを設立し、代表取締役に就任。特に研究開発業務における知財情報活用の実現と促進を目的とした人材育成、コンサルティングサービスを提供している。

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