事業開発の各フェーズで特許分析を活かす実務

はじめまして。株式会社リコーにて知財情報解析を行っています、池です。

私はこれまで特許調査会社、自動車メーカーの子会社、そして現職である株式会社リコーにて一貫して、特許調査・分析業務に従事してきました。

本稿では、事業開発の流れに沿って、どのタイミングでどのように調査・分析を実施すれば効果的なのか、特に特許分析に着目して実務的なポイントを紹介します。

一般的な事業開発の流れ

まず、知財の実務家として押さえておきたい、事業開発の典型的なステップを示します。

ステップ概要
探索・構想市場ニーズや社会課題を把握し、自社技術や強みと結びつけて新しい事業アイデアを創出する段階。
計画・設計想定顧客や提供価値、ビジネスモデルを具体化し、必要なリソース、技術要件、競合との差別化ポイントを設計する段階。
開発・実証技術開発や試作を行い、PoC※1などを通して事業の実現可能性をテストする段階。
展開・拡大製品・サービスを市場に投入し、フィードバックを受けつつ改善・拡張を行い、持続的な成長を図る段階。

※1 PoCとは:PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、新しいアイデア、技術、製品、サービスなどが実現可能かどうか、本格的な開発に入る前に小規模で検証するプロセス。

この流れは業界・企業規模によっても異なりますが、重要なのはその事業が今どのフェーズにあるかを把握することです。なぜなら、フェーズによって有効な調査・分析のアプローチが大きく異なるからです。

次に、各フェーズにおける特許分析の着眼点と実施すべき内容を整理します。

各ステップにおける着眼点と調査・分析内容の一例

ステップ着眼点特許調査・分析内容(一例)
探索・構想広く可能性を探索し、新たな兆しを捉える段階。過度にスコープを限定せず、異分野や周辺技術も視野に入れる。・出願件数推移による技術トレンド分析
・引用・被引用分析による応用領域探索
・特許による用途分析など
計画・設計意思決定の後押しとなるようなバックデータを中心に収集する。自社技術の視点だけでなく、収益性やビジネスモデル、競合との比較など市場や他社動向も併せて確認する。・出願人分析による競合特定
・他社の特許網・参入障壁の確認・特許ポートフォリオ比較分析による自社の強み・ギャップの把握など
開発・実証現状で想定される仕様に基づいて、クリアランスと自社技術の保護・他社排除の観点で調査を行う。自社・連携先を含めた知財ポートフォリオを可視化することで、優位性とリスク領域を明確にする。・先行技術調査
・クリアランス調査・共同開発・外注先の権利調査
・設計回避・代替技術の探索・技術要素別特許ポートフォリオ分析など
展開・拡大事業を守るだけでなく、事業の成長に合わせて知財を再構築する段階。模倣・侵害リスクの継続的モニタリングとともに、ライセンス・提携・買収などのオープンイノベーションの視点も取り入れ、事業の自由度・競争力を高める。・模倣・侵害予防のための他社特許モニタリング・特許分析による協業・買収先の選定
・事業自由度確保のための契約・ライセンス候補の探索など

各ステップで必要となる分析の切り口は異なりますが、共通して重要なことは、調査を「依頼に応じて行う受け身型の分析」から「意思決定を支援する提案型の分析」へと転換させることです。

事業開発の視点を意識して分析設計を行うことで、知財分析は単なる報告資料ではなく、事業判断を後押しする重要なインプットとなります。

今回は特許情報に焦点を当てましたが、もちろん非特許情報(論文などの技術文献、ニュース情報、スタートアップ投資情報など)を組み合わせることで、さらに多角的な視点から事業開発を後押しすることができるはずです。

まとめ

本稿では、事業開発のステップに沿って、各フェーズで活かせる特許調査・分析の着眼点と具体例を整理しました。重要なのは、各ステップにおいて定型的に分析を当てはめるのではなく、事業部やR&D部門の課題意識や方針を汲み取ることです。

調査・分析は「調べて終わり」なのではありません。

事業部門との対話を通じて仮説探索・仮説検証のループを回しながら、知財分析を事業開発の一部として機能させることが、これからの知財実務家に求められる役割なのではないでしょうか。

池 昂一

株式会社リコー 技術統括部 知的財産センター 知的財産戦略室 知的財産戦略グループ

AIPE認定 シニア知的財産アナリスト(特許)、知的財産アナリスト(コンテンツ)

特許調査会社に入社後、特許調査、特許分析業務に従事。

その後、自動車メーカー子会社にて特許調査・分析の他、中間処理、発明発掘、知財教育業務を経験。

2019年より株式会社リコーにて知財情報解析専任として、知財からのイノベーション・新規事業創出を目指して活動中。

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