知財×経営×技術 — 3つの軸で描く、新しいキャリアの形

はじめに

 新卒で企業の知財部門に配属後、18年間「知財」の現場に携わってきた。特許の出願・権利化に始まり、権利活用・知財訴訟も経験。現職の総合電機メーカーでは、製作所の知財部門の立ち上げから知財戦略の立案・実行まで担ってきました。気づけば、ひたすら企業知財という世界を歩んできたことになります。

 そして今、私は技術部門に異動し、システムエンジニアとして新たなキャリアを歩み始めました。知財から技術へ−いわば「逆方向へのピボット」です。これまでの慣行から言えば少し珍しいキャリアとなりますが、振り返ると「知財×経営×技術」という3つの軸を通し、知的財産の価値を多面的に再認識してきたように思います。

第1の軸:「知財」の最前線で学んだ守る力

 キャリアの出発点は、2007年に入社したプリンターメーカー。当時、知財活動が最も活発であった業界で、ひたすら特許の出願・権利化の実務に没頭しました。年間100件以上の新規出願を一人で担当。圧倒的な件数に挑む過程で、失敗と成功を重ねながら特許権利化スキルを向上させてきました。

 その後は医療機器メーカーに移り、知財訴訟を始めとした権利活用の現場へ。特許権を獲得するだけではなく、権利をいかに活用して事業貢献するかが問われました。実務の中で知的財産権の威力を目の当たりにしたのもこの頃です。1つの特許権が獲得できるか、競合の事業を差し止めることができるかで事業の命運が変わる。高度な技術であっても、それが利益に繋がらなければ意味がない。優良な利益構造を長期間維持し、企業の存続・発展に寄与できる特許こそ目指すべき良い特許と実感しました。

 知財業務は、良い仕事をしてもすぐに分かりやすい利益につながることは少ないかもしれません。しかし、日々知恵を絞りあらゆる可能性を考え準備しているからこそ、いざ必要とされる場面においても適切な対応がとれるのだと思います。誰かの指示を受け動くのではなく、一人ひとりが常に「どのような権利があれば事業を有利に進められるか」を主体的に考え行動する。専門性だけではなく、高いマインドを持ち続けることこそが知財人材の本質的な価値なのだと感じています。

第2の軸:「経営」支援で気付いた知財を活かす視点

 「経営に貢献する知財活動」を標榜するのであれば、企業経営を理解する必要がある。そう考えて一念発起し、経営コンサルタント国家資格である「中小企業診断士」を取得。コロナ禍で売上が激減し、会社の存続に苦しむ中小企業の社長に伴走しながら打開策や新たな取り組みの実行支援を行いました。危機的な状況下でも「雇用だけは絶対に死守する」という社長の言葉に、経営の厳しさ、そして経営者としての覚悟を見ました。新規製品やサービスが次々と生まれる中でも、特許権や商標権の獲得にかけられる予算は限られる。出願という大きな投資を行う以上は、確実に資金調達や事業の利益確保に貢献しなければいけない。「あくまで知財は経営の道具であり、経営を理解してこそ活かせる」ことを痛感しました。


 この経験を経て、知財戦略の策定にあたっても経営、事業のKPIへの効き方を起点に据えるようにしました。単に出願件数等の数値目標を決めるのではなく、企業が抱える課題と知財によりどのKPIに寄与するのか明確化し施策を考える。経営現場での学びが、知財の価値を一段深めてくれたように思います。

第3の軸:「技術」の現場で見えた使う力

 現在の私は技術部門にてシステムエンジニアとして勤務しています。自身もシステム設計を担いながら、設計チームを率いています。立場が変わると他部門から見た知財の姿がよく分かります。現場の技術者にとって知財は重要なものと認識しつつもどこか遠い存在であり、どのような貢献につながるのか分かりにくいこともあります。その一方で、新規事業の立ち上げや難題に直面した際には、専門家の助言に対する期待も高い。積極的に現場に入り込み、意思決定に間に合う形で示唆をくれる知財担当者は本当に心強い存在です。

 今私は、知財権を活用しながら事業を発展させる使う側の視点で知財の価値を再発見しているところです。これからは知財と経営、そして技術の間に橋を架ける役割を果たしたい。この三軸が同時に回り始めたとき、初めて企業の競争力は本当の意味で強くなると信じています。

おわりに

 これまでのキャリアを振り返ると、知財から経営、そして技術へと、3つの異なる世界を進んできました。専門性を捨てるのではなく、考え方の軸を増やす旅をしてきたのだと思います。それぞれの現場で得た学びは、互いに関連し、新しい視野を生んでいます。

 キャリアに一本道も正解もない。時には遠回りに見える選択でも、後から振り返ればすべてがつながっているように思います。知財スタッフとして専門を高めることも大切ですが、軸を増やす勇気を持つことも重要です。企業で輝く知財は、部門を越境した先にあるのだと思っています。

 私の新しい旅もまだ始まったばかり。これからも、知財・経営・技術の交差点で、自分なりのキャリアを築いていきたい。この経験が、次のキャリアを模索する誰かの背中を少しでも押せるのなら嬉しく思います。

清田 峻吾

大手メーカーにて知財実務・戦略立案を担当。2020年に中小企業診断士資格を取得し、地域の中小企業の経営支援活動にも従事。現在は総合電機メーカーのシステムエンジニアとして勤務し、知財・経営・技術を横断する視点から、次世代の知財人材育成と実務のあり方を探求中。

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