時代の変化を肌で感じた日
先日、明治時代から3代続いた製糸業の家屋を見学する機会がありました。蚕から糸を紡ぐ、一家総出での営み。そこには、家庭が仕事場であり、教育の場でもあった時代の息吹が残っていました。
そこから時代は大きく変化しました。家庭教育から学校教育へ。高度経済成長期には終身雇用制が当たり前となり、一つの会社に人生を捧げることが美徳とされた時代がありました。
しかし今、私たちは再び大きな転換点に立っています。
働き方の大転換:単線型から複線型キャリアへ
私が大学を卒業した頃、転職はまだ珍しいものでした。「大卒就職で人生が決まる」という考え方が根強く、転職サイトも今ほど充実していませんでした。それがわずか十数年の間に、転職は当たり前となり、さらには一人が複数の仕事を掛け持つことも珍しくない時代になりました。
アメリカでは既に一般的となっているこの働き方は、日本でも確実に広がっています。単線的なキャリアから、複線的なキャリアへ。この変化は不可逆的であり、もう元には戻りません。
「風の時代」に求められる新しい価値観
こうした時代の変化の中で、最も重要になるのは「誰と協力的な人間関係を築くか」ということです。
私自身、この点において本当に恵まれてきました。10年以上前にパテント・インテグレーションをリリースした際、最初のユーザーは私自身、2番目は当時の同僚だった清田氏でした。彼とは現在も知財情報フェアなどで協力関係を続けています。3番目のユーザーはイーパテントの野崎さんで、随分と長いお付き合いとなりました。
人との繋がりが未来を創る
その後、私は発明知識の構造化に強い関心を持ち、研究を深めていきました。2013年11月には「対象発明の理解を通じたクレーム作成方法の提案,そしてその応用」、2015年11月には「パテント・ポートフォリオ構築のための概念俯瞰フレームワーク」という論文をパテント誌に発表しました。
論文PDF: 対象発明の理解を通じたクレーム作成方法の提案,そしてその応用(2013年11月)
論文PDF: パテント・ポートフォリオ構築のための概念俯瞰フレームワーク(2015年11月)
ちょうどこの頃、請求項表現の改善に取り組んでおられた弁理士の宮下洋明先生と出会いました。発明知識の構造化という共通のテーマを通じて、食事をご一緒したり意見交換をさせていただく機会に恵まれました。お互いにここまで長い付き合いになるとは、当時は想像もしていませんでした。
その後、これらの研究成果を基に、Udemy講座「初心者でもわかる特許の書き方講座【初心者向け】【弁理士が教える特許セミナー】【書き方のコツ】」をリリースしました。現在、2,894名の受講者と、580名以上の方から4.5以上の評価をいただいています。弁理士としてキャリアを始められた方から「最初に参考になった」という有難いレビューもいただき、この上ない喜びを感じています。
これらの取り組みは、一人では決して成し遂げられませんでした。様々な方との協力関係があったからこそ、実現できたのです。
変化を予見し、柔軟に対応する力
知識構造化に取り組む中で感じていた大きな課題が、10年以上の時を経て生成AI時代に解決されるとは夢にも思いませんでした。
実は、2010年代前半——深層学習モデルすら存在しない時代に、私は既に発明知識の構造化と情報処理におけるボトルネックを認識していました。どのような技術があれば、どのような問題が解決可能かは、ある程度予見できていたのです。
だからこそ、2022年末にChatGPTが発表された瞬間、これがいかに革新的で、知識科学においてこれまでまったく解決困難であった様々な問題を解決し得る要素技術であるかをすぐに理解できました。そして即座に、プロダクトとして形にする必要があると判断したのです。
パテント・インテグレーション株式会社が提供する特許の読解支援AIアシスタントサービスを2023年4月5日にリリースした際、多くの方から「なぜその時点でプロダクトとして形にできたのか」と質問されました。しかしそれは、10年以上前からの積み重ねと、変化を柔軟に捉える姿勢があったからに他なりません。
大胆なピボット——生成AI中心設計への転換
ここで重要だったのは、単に生成AIを既存サービスに追加するのではなく、生成AI中心にプロダクトを全面的に再設計するという大胆な決断でした。
多くの企業は、既存製品に生成AIを付加機能として追加するアプローチを選びました。既存の仕組みやユーザー体験を維持しながら、AIを「おまけ」として提供する方法です。これは確かに安全な選択肢でした。
しかし私たちは違う判断をしました。生成AIはただの付加機能ではなく、プロダクトの中核に据えるべき革新的技術だと考えたのです。これまで構築してきたシステムやワークフローを一から見直し、生成AIを前提とした全く新しい設計思想でプロダクトを作り直す——それは大きなリスクを伴う決断でした。
既存のユーザー体験を捨て、新しいパラダイムを提示する。この思い切ったピボットを実行したのは、当社のみでした。
2025年末の現時点で振り返ると、この意思決定は正しかったと確信しています。生成AIという新しい技術に対して、既存の枠組みに収めるのではなく、技術の本質を理解し、それを最大限に活かす設計を選んだこと。これが成功の鍵だったのです。
変化を恐れず、前へ進むために
最近読んだ書籍「Master of Change 変わりつづける人 最新研究が実証する最強の生存戦略」には、印象的な記述がありました。大人は生涯で平均36回、”人生を揺るがす出来事”を経験するというのです。就職、退職、結婚、離婚、出産、病気、出会い、別れ……。
今後、変化の速度はさらに加速していきます。
だからこそ、私たちに必要なのは:
- 様々なことに興味関心を持つこと
- 多様な人と協力的な関係を築くこと
- 硬直的ではなく、柔軟に考えること
- 変化を受け入れ、前に進んでいくこと
「風の時代」と呼ばれる今、個人の時代、アウトプット重視の時代です。一つの道に固執するのではなく、複線的にキャリアを捉え、変化を恐れずに新しい可能性に挑戦していく。
そんな柔軟な姿勢こそが、これからの時代を生き抜く最強の戦略なのではないでしょうか。
変化は避けられません。ならば、変化を味方につけて、前へ進んでいきましょう。

Udemy講師・IPTech特許業務法人 弁理士
東京大学大学院博士課程中退後、メーカー知財部署にて弁理士としてのキャリアをスタート。その後、メーカー知財部署で5年、企業研究所で約8年の実務(新規出願(アイデア発掘、インタビュー、クレームドラフティング)、中間対応(意見書・補正書、審判請求書等のドラフティング、審査面接など)、無効審判代理、米国特許訴訟など、そのほか特許検索、特許分析、知財戦略立案など)を経験。
ライセンス契約、大学などとの共同研究契約、産学連携実務など知財関連の契約業務全般の実務も経験。

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