【新卒知財就活】「有名企業=正解」ではない。幅広い実務経験を求めて選んだキャリア戦略 

Pさんが語る「細分化された大規模知財部」と「幅広い経験ができる小・中規模知財部」とを天秤にかけた就職活動の意思決定

【この記事はこんな人におすすめ】

  • 「研究開発職」ではなく「知財職」で、最速で市場価値の高いスキルを身につけたい人
  • 知財職志望で新卒就活をしており、企業の知名度や規模だけでなく、キャリア形成の観点から「自分に合う選び方」で悩んでいる学生さん
  • 大企業だけでなく、中堅・非上場の優良企業も視野に入れたい学生さん
目次

イントロダクション

こんにちは、知財若手の会代表の藤原です。

この連載では、知財業界で働く若手にインタビューを行い、彼らが直面した「キャリアの分岐点における意思決定」について、ケーススタディとしてお届けします。

新卒就活では、多くの人が「とりあえず大企業」を目指しがちです。しかし、組織の規模が大きいほど、業務が細分化されていたり、希望通りの仕事ができなかったりするリスクもあります。 今回のゲストは、化学・食品系の製造装置・システムメーカーの知財部で働く社会人7年目のPさん(仮名)です。Pさんは学生時代、あえて分業制の大企業を避け、非上場の「グローバルニッチトップ企業」を就職先として選びました。

「分業」か「全領域」か。その葛藤を独自のロジックで乗り越え、現在は若きエースとして活躍するPさんの就活戦略を伺いました。

【この記事のポイント】

  • ターゲット: 知財職への就職を検討中の理系・文系の大学生・大学院生
  • 転機の論点: 「分業制知財部」vs「全領域知財部」、「上場企業」vs「非上場企業」
  • 学べること: 知財プロフェッショナルとしてのキャリア戦略と、知財部採用を見据えた企業研究の視点

キャリアの全体像:Pさんの歩み

まずは、Pさんのこれまでのキャリアを時系列で振り返ります。

時期所属・状況キャリアの動き
高校時代理系物理や化学の延長線上にある研究・開発職に人と同じように進むことを疑問視し、希少性の高い知財専攻の大学への進学を決意。
大学~
大学院時代
知財専攻弁理士試験の勉強や特許事務所でのアルバイトを経験し、知財実務のイメージを構築。食品・素材系を中心に企業を絞り込み就職活動を実施。
就職活動
・入社
現在の企業へ新卒入社経済産業省選定の「グローバルニッチトップ企業」である、化学・食品系の製造装置・システムメーカーに入社。入社後弁理士資格を取得。
現在(社会人7年目)知財部退職した先輩社員の業務も引き継ぎ、若手ながら通常の倍以上の業務量をこなす。年間約50件の出願を担当し、社内で一番の実績を持つポジションで活躍中。

深掘り:就活における最大の転機「大企業か、それ以外か」

Pさんの就職活動は、多くの学生さんが陥りがちな「とりあえず知名度の高い大手企業にエントリーする」という横並びの戦い方への疑問から始まりました。学歴や経歴が重視される一般的な就職活動において、Pさんは「他人と同じことをしていては勝てない」と冷徹に自己分析を行っていました。

「真のプロフェッショナル」の定義と大企業への違和感

企業選びを進める中で、Pさんは「知財の専門家とは何か」を深く思考しました。Pさんが導き出した答えは、「特定業務だけではなく、知財実務を横断的に理解し、自ら判断・行動できる人材 」がプロフェッショナルであるという定義です。

しかし、インターンシップや企業説明会で実態を知るにつれ、大企業知財部への違和感が募っていきます。

Pさん

数十人から100人規模の大きな知財部では、出願担当や調査担当といったように完全に分業が進んでいました。特定の作業だけを突き詰めても、真のプロにはなれないのではないかと考えたのです。

また、入社後も「配属リスク」がつきまといます。せっかく知財部に入っても希望する業務ができず、異動も困難な環境では、目指すプロフェッショナル像から遠ざかってしまうと判断しました。

「上場=安定」という固定観念からの脱却

Pさんの意思決定を決定づけたもう一つの独自の軸が、「上場企業か非上場企業か」という視点です。多くの学生が上場企業を「安心・安全」の証と見なす中、Pさんの見方は全く異なりました。

Pさん

上場企業は資金が集まりやすい一方で、常に株主へ利益を還元し続けなければなりません。莫大な資金を持つ機関投資家はシビアであり、利益が出なければ即座に資金を引き揚げます。株主の顔色を伺い、その意向によって経営方針が左右される上場企業は、非常に不自由だと感じました。

これに対し、自社資金で事業を行う非上場企業は、トップの決裁のみでスピーディーな経営戦略が可能です。外部資本に頼らず、自分たちのリスクで事業を成し遂げるという「筋の通った経営」ができる点に、Pさんは本質的な強さと魅力を感じたのです。

グローバルニッチトップ企業という最適解

「何でもできる小規模知財部」かつ「非上場企業」という極めて絞り込まれた条件の中で、Pさんが最終的に選んだのは、経済産業省が選定する「グローバルニッチトップ企業」でした。

Pさん

ニッチな分野では市場のパイが限られているため、大手企業にとって参入障壁が高い状態にあります。そこでトップシェアということは、特許網がしっかりと整備され、他社の追従を許さない確固たる証拠です。

コロナ禍という不安定な時期の就職活動において、手あたり次第にエントリーする戦法を捨て、自分が会社に貢献できる論理的な根拠(会社にとってどれだけ利益を出せるか)を徹底的に練り上げた結果の決断でした。

入社後のリアル:倍のスピードで成長する環境

あえて小規模の知財部を選んだPさんですが、入社後はどのような現実が待っていたのでしょうか。

現在の知財部は10名以下の体制で、Pさんは出願、中間処理、調査、審判、訴訟、契約、社内教育まで、 まさに全方位の知財実務を網羅しています。入社直後に先輩社員が立て続けに退職したこともあり、若手ながら通常の倍以上の業務量を引き継ぎ、現在では社内で最も多い年間約50件の出願を担当する主軸へと成長しました。

厳格な承認プロセスと強い権利の構築

また、企業知財部に対する「良いギャップ」もありました。 小規模の知財部では、特許事務所に明細書から請求項まで一任することもありますが、Pさんの会社は『請求項を自社で詳細に作成する』という専門性の高い文化がありました。これは、特許事務所へ一任するのではなく、自ら他社牽制力の高い権利を検討・追求していく環境であり、知財実務のスキルを大きく磨け ました。

一方で、苦労する点もあります。それは、社内の承認者も弁護士や弁理士の資格を持つ「プロフェッショナル」であることです。

Pさん

各業務の承認を得るまでに、厳密な法的根拠に基づいた厳しい指摘や徹底的な議論が交わされます。承認ハードルが高いという苦労はありますが、指摘から学ぶことは多く、結果として会社を守る強い権利を生み出すことができています。

思考の軸・哲学

「人と同じ道は歩まない」生存戦略

Pさんのキャリアを貫く哲学は、「尖り続けること」と「他人と同じことをしないこと」です。

Pさん

誰でもできる仕事であれば、他の誰かにお願いすればいいと考えています。自分にしかできない仕事だからこそ価値がある。知財は、専門性が高いゆえに目に見えにくい仕事ですが、巨額のお金が動き、会社を守る『唯一無二』の存在です。だからこそ、この道を選びました。

知財職の魅力は「理不尽のなさ」

知財職の実務的な魅力について、Pさんは「理不尽がないこと」を挙げます。

Pさん

開発職なら原因不明の不具合に悩まされたり、営業職なら理不尽なクレーム対応が発生したりすることもあります。しかし、知財の仕事はすべて国とのやり取りであり、明確な法律に基づいて判断されます。感情に左右されることなく、特許にならなかった場合も『なぜ駄目だったのか』という明確な結論と学びが得られるのが、知財の素晴らしい点です。

同世代へのメッセージ

今、迷っているあなたへ

最後に、知財業界への就職を考えている学生さんへのメッセージをいただきました。

Pさん

人生に正解はありませんし、今は転職の選択肢も広く、やり直しが利く時代です。知財は専門性が身に付く“手に職”の仕事であり、さらに多くの企業に知財部門が存在するため、経験を積めば転職によって新たな環境へ挑戦することもできます。

Pさん

仮に一度やってみて違和感があったとしても、別の会社で軌道修正しやすい柔軟な職種だと思います。少しでも興味があるなら、ぜひ挑戦してみてほしいです。悩んで行動しないよりも、まず挑戦し、そこで得た経験を今後の人生に活かす方が、はるかに価値があると感じています

明日からできるアクションプラン

AIを鏡にして適性を探る

自分の人生プランやビジョンをChatGPTなどのAIに入力し、「知財の仕事と自分の性格・ビジョンが合っているか」を壁打ちしてみましょう。

現場の「中の人」に会う

お医者さんであれば病院で話したことがあるように、仕事内容が多少なりとも想像できますよね。でも、知財職ってどうでしょう?実際に働いている人を見たことがある人は少ないですし、具体的にどんな仕事をしているのか、よくわからないのが正直なところではないでしょうか?だからこそ、実際に知財職で働いている人にコンタクトを取り、その「生の声」を聞くことが、最も確実な職種研究になります。
もし悩んでいるなら、藤原さんに連絡していただければ、私が相談に乗ります。

もし、「企業知財で働く若手社員に直接話を聞いてみたい」という学生さんがいれば、Pさんにお繋ぎするので、知財若手の会の藤原までぜひご連絡ください。

編集後記・補足:企業知財の探し方・調べ方

Pさんの就活は、「大企業=正解」という思考停止に陥ることなく、自分自身の適性と「プロフェッショナルになるための条件」を泥臭くすり合わせた結果の戦略的勝利と言えます。

最後に、Pさんが学生時代に実践していた「知財職を募集している企業」の具体的な探し方と調べ方のノウハウを補足します。

① 知財求人のリストアップと直接アプローチ

どの企業が知財人材を求めているかどうかは、外から見えにくいという課題があります。そこでPさんは、マイナビやリクナビ、リーガルジョブボードなどの各種就活・転職サイトを駆使し、「知財」「知的財産」「特許」といったキーワード検索でヒットした企業を約100社リストアップしていました。 さらに、募集要項に知財職の記載がない会社であっても、自身が興味を持った企業に対しては個別に問い合わせを行うなど、他の人がやらないアプローチを実施していました。実際、問い合わせの結果「現在は募集していないが、意欲があるなら面接に来ないか」と打診されたケースもあったそうです。

② J-PlatPatを使った「業務量」の推測

企業の知財部の規模や担当者の負担を推測するためには、「特許出願件数」を調べることが有効です。 独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する「J-PlatPat」を使えば、企業名で検索するだけで過去の出願件数を調べることができます。 出願年で絞り込むことで、その企業が近年出願を増やしているのか、減らしているのかといったトレンドも把握できます。企業説明会で知財部の人数(出願担当、事務担当などの内訳)を質問し、この出願件数データと照らし合わせることで、「この会社に入れば、年間何件くらいの実務を経験できるか」を就活生側から逆算することが可能になります。

(文/インタビュー:知財若手の会代表 藤原誠悟)

藤原 誠悟

メーカー勤務の弁理士として、製造業の研究・開発現場における知的財産の調査・分析や事業化支援に携わる。

メーカー勤務の傍ら、FujIP弁理士事務所を設立。

意匠・特許の知財実務だけでなく、知財情報を活用した新製品開発支援を得意とする。

若手知財コミュニティ「知財若手の会」の次期代表として、知財業界の繋がり作りにも注力している。

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