弁理士の谷和紘と申します。日本弁理士会の実務修習の講師を10年以上勤めており、また、日本弁理士会の育成塾の講師も務めております。先日は、特許の鉄人に出場し、生成AIを利用しながら請求項を作成しました。そのバックグラウンドも有り、今回、GrIPさんの記事にて生成AIによる明細書の質向上に関する記事を書かせていただくことになりました。
私は、日常の特許実務においてClaudeのSkillsを使っています。ざっくりいうと、私のセミナーでの講義資料や僕の明細書を読み込ませることで私の癖を抽出して私のコピーを作ることができる機能です。実務では、Claudeに発明者資料、議事録(クレーム方針含む)、会議の録音の文字起こしなどを入力し、請求項を作成させます。請求項を手直しした後に、図面や背景技術課題を作成します。そして、図面、請求項、発明者資料、議事録(クレーム方針含む)、会議の録音の文字起こしなどを再度Claudeに入力し、明細書を書かせます。最後に、手直しして明細書が完成です。30,000文字程度の明細書であれば、8-10時間で完成します。ちなみに、生成AIを使わなければ、2倍程度の時間が必要であると考えます。ここまでの話であれば、単なる作業効率化の話です。クライアントからしたら納期が短くなったくらいのうれしさしかないです。
ただ、生成AIを明細書作成に利用するメリットは作業効率の向上に限らないと考えています。主に以下の4点で質的なメリットがあります。
- 中位概念の抽出
- 従属項の作成&効果の記載
- 組み合わせの全開示
- 出願時における阻害要因風ストーリーの仕込み
1点目は、独立請求項や上位の請求項に記載した上位概念と、実施形態の実際の細かい記載である下位概念との間の中位概念をひたすら生成AIが書けることです。平たく言うと、請求項では四角形状、実施形態の図面は正方形であるときに、長方形を中位概念として実施形態に開示することです。人間の注意力とスタミナでは途中で力尽きるようなケースでも、生成AIにやらせるとやり切ってくれます。
2点目は、従属項の作成&効果の記載です。生成AIを使うと、10や20の従属項を一瞬で作ってくれます。もちろん、使えないものやつまらないものもありますが、資料からかなり頑張って抽出してくれます。また、実務家の方であればわかっていただけると思いますが、従属項の効果を考えるのって一苦労します。そういう場合でも、生成AIがひねり出してくれます。
3点目は、組み合わせの全開示です。例えば、実施形態に書いている構成と変形例に書いている構成をつまんで請求項を作り直したいことがあると思います。でも、これらを組み合わせた開示がない場合、新規事項追加として補正が認められないケースがあります。そこで、すべての実施形態と変形例とを組み合わせた開示をしておくことにより、新規事項追加と言われにくくすることができます。このような開示は数千文字になるケースも少なくないので、人間の手でやっていると心が病んでしまいます。でも、生成AIであれば、文句も言わず作成してくれます。
4点目は、セミナーでお話ししているテクニックです。引例1と引例2との組み合わせで簡単に進歩性なしと言われそうな場合に使うテクニックです。引例1と引例2とを見ながら、頭をひねりながら組み合わせる阻害要因を出願段階で絞り出します。加えて、普通であれば引例1と引例2とを組み合わせられないはずだけど、本願発明者は視点を変えることで引例1と引例2とを組み合わせられることができることに気づいた(例えば、顕著な効果があることに気づいた)みたいな文章を絞り出します。そして、これらの文章を明細書に記載します。要は、屁理屈こねてるだけなんですが、これを考え出すと数時間は簡単に溶けます。そのため、特別な案件以外では非常に使いにくいテクニックでした。現在は、この作業を生成AIに行わせています。毎回素晴らしい出力が得られるわけではありませんが、生成AIのアウトプットに私がツッコミを入れるなどすれば出力の精度が向上します。これで、10-30分もあれば使えそうな出力を得ることができるようになりました。
以上のように、生成AIを使うと人の力では時間とお金の問題でやりきれなかったことをできるようになってきています。それを利用することにより、明細書の品質を向上させることもできます。ご紹介した例はあくまでその一例ですが、皆様の参考になれば幸いです。

弁理士会実務修習「明細書の在り方演習」講師(大阪機械)|弁理士会育成塾講師(機械)|裁判所専門委員|知財実務情報Lab.®専門家チーム|知財塾相談役|KTKクレドラ班班長|2025M1・1回戦敗退|専門分野:ソフト・機械・電気|阪大→阪大院→特許事務所→シャープ液晶特許→特許事務所|2002年弁理士登録|




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