AI時代の知財担当者に残る仕事は何か―知財・情報フェア2026を歩いて考えたこと

2026年9月16日から18日まで、東京ビッグサイトで開催された「知財・情報フェア&コンファレンス」を訪れました。

知財・情報フェア自体は長年開催されていますが、私が実際に会場へ足を運んだのは今年が初めてです。

「AIで何ができるか」ではなく、「知財業務のどこでAIを使うのか」。

GrIPのメディアをはじめ、各種セミナーやSNSなどですでに何度も発信されています。

今回は、生成AIの機能を中小企業における知財業務に当てはめたときに、どこに価値があり、どこまでを専用サービスに求める必要があるのかを、実際に見て確かめたいと思い参加しました。

目次

「AI」を掲げないと、興味を持ってもらえない?

会場を歩くと、多くのサービスに「AI」「生成AI」という言葉が使われています。
生成AIが知財業務に入ってくること自体は、すでに珍しいことではありません。
実際に生成AIによって便利になっているサービスも数多くあります。

一方で、いまは「AIを使っている」と打ち出さなければ、そもそも興味を持ってもらいにくい時代にもなっているのではないか、と感じました。

だからこそ、利用する側は「AIを使っているから便利そう」で選ぶのではなく、

  • 何の業務を改善したいのか。
  • どこに困っているのか。
  • その機能をどのくらいの頻度で使うのか。
  • 自社の環境や管理件数に見合っているのか。

を考える必要があります。

専用AIは「ここまでできるのか」と思った

今回、特に印象に残ったものの一つが、発明発掘から調査、判断、中間処理の整理までを一つの流れとして支援するサービスでした。

単に検索結果を出したり、文章を要約したりするだけではありません。

「この判断をするためには何を確認する必要があるのか」
「次にどの情報を見るべきか」
「現時点では何が不足しているのか」

といった、判断に必要となる材料や確認の流れまで支援する仕組みです。

ここに、専用AIならではの強さを感じました。

こうした判断の流れが一定の形で示されるようになれば、担当者個人の経験に依存していた部分を、少しずつ組織の仕組みに移していくこともできそうです。

また、経験の浅い担当者にとっても、単に作業を効率化するだけでなく、「何を確認し、どのような順番で考えるのか」を学ぶための支援にもなり得ます。

案件の進捗管理や確認事項の整理といった業務の一部はAIが担い、人は、最終的な判断をすることに変わることで、知財業務の進め方そのものや、知財担当者に求められる役割が変わっていくことを感じました。

でも、それをするために高額なシステムが必要なのか

一方で、ここで現実的な問題も出てきます。よくできた専用システムほど、当然ながら費用も高くなります。

発明発掘、調査、出願支援、分析、管理などを一つの環境で行えるトータルサービスは魅力的です。

ただ、自社の環境や、年間の出願件数、管理している案件数を考えたときに、「本当にここまでの機能が必要なのだろうか」とも感じました。

機能としては素晴らしくても、自社にとっては仕様過多ということもあります。

そこで考えたのが、専用サービスで実現されている考え方や業務フローのすべてを、そのままシステムとして導入する必要があるのか、ということでした。

汎用AIと専用AIをどう組み合わせるか

専用AIには、知財業務に必要なデータや機能、ワークフローがあらかじめ整えられているという強みがあります。

一方、汎用AIには、自社の業務や目的に合わせて柔軟に使い方を組み立てられる良さがあります。

業務の重要度、求める精度、利用するデータ、セキュリティ、再現性、利用頻度などを踏まえながら、専用サービスを使うべきところと、汎用AIを活用できるところを見極める。

その組み合わせを考えることが、これから現実的な選択肢になっていくのではないでしょうか。

専用サービスを見ることは、そのサービスを導入するかどうかを判断するだけでなく、

「この業務はここまで整理できるのか」
「この判断には、こういう情報が必要なのか」

と、自社の業務を考えるヒントにもなりました。

「全部入り」より、必要な工程だけ使いたい

今回さまざまなサービスを見ていて、もう一つ感じたことがあります。

知財業務は、発明発掘、先行技術調査、侵害予防調査、出願、権利化、管理、活用、契約など、多くのフェーズに分かれています。

企業によって、困っているところも違います。

発明発掘に課題がある会社もあれば、調査を効率化したい会社もある。

出願後の管理が大変な会社もあれば、特許事務所との情報共有に困っている会社もあります。

そう考えると、すべてを一つにまとめたトータルサービスだけでなく、必要な業務フェーズだけを選べるサービスにも需要があるのではないでしょうか。

今回、AIをどの業務で使うかがかなり見えてきたからこそ、今後はむしろ、業務フェーズごとに機能を切り出したサービスが増えていくのではないかとも感じました。

利用する企業側から見ても、その方が自社に必要なところから導入しやすくなります。

知財管理も「高機能だからよい」ではない

知財管理系のサービスについても同じことを感じました。

クラウド上で案件や期限を管理し、特許事務所と情報共有し、事務作業まで外部と連携できる仕組みは魅力的です。

特に将来、社内の事務担当者が変わったり、知財管理業務を外部へ委託したりすることを考えると、クラウド上で業務を共有できることには大きなメリットがあります。

しかし、ここでも自社の規模とのバランスがあります。

管理する案件数が多くない企業にとって、多機能な管理システムは便利である一方、使わない機能が多くなる可能性もあります。

逆にオンプレミスで管理すれば、クラウドによる管理サービスが終了するリスクは抑えやすいものの、外部の事務担当者や特許事務所と連携するには不便になることがあります。

結局ここでも、「どのシステムが一番よいか」ではなく、「自社は知財管理を今後どうしたいのか」を先に考えなければ選べません。

外部の知財管理サービスや特許事務所との連携を重視するなら、クラウド型のサービスが必要になるかもしれない。

自社内で完結させるなら、もっとシンプルな仕組みで十分かもしれない。

私自身、中小企業で他業務と兼任しながら知財業務を担当しているため、機能が豊富であることが、そのまま導入メリットになるとは限らないと感じました。限られた人数や予算の中では、自社の案件数や運用体制に対して、本当に必要な機能は何かを見極めることの方が重要です。

便利なサービスを見て、自社の業務を振り返ることになった

さまざまなサービスを見ていると、結果的にツールそのものより、自分たちの業務の方が気になってきました。

発明発掘、調査、判断、出願、管理。

それぞれについて、誰が、いつ、何を確認し、どのような基準で次へ進むのか。

こうした業務フェーズや判断ルートが整理されていなければ、どのシステムが自社に合うのかも判断できません。

業務引継ぎという面でも同じです。

担当者本人には分かっていても、次の担当者には分からない。

そんな業務が残っていれば、新しいシステムを入れる前に整理すべきことがあります。

正直、今回のフェアを歩きながら、自分たちができていないこともかなり見えてきました。

少し落ち込みそうにもなりましたが、一方で、「これから何を整理すればよいのか」も見えたと思っています。

AI時代に、知財担当者はどこに向き合うのか

AIによって、検索、分類、要約、文章作成など、これまで人が時間をかけていた作業の一部を支援できるようになっています。

そのとき知財担当者は、これまでと同じ仕事の進め方を続けるのではなく、人がより時間をかけるべき仕事は何なのかを考える必要があるのではないでしょうか。

発明や技術の価値をどう捉えるのか。
自社の知的財産をどう競争力につなげるのか。
他社に対する障壁をどう作るのか。
自社ならではの技術や製品を、どう守り、どう育てるのか。

知財の手続や作業だけではなく、技術、製品、事業、経営まで視野を広げて考えることの重要性は、さらに高まっていくように思います。

専門家が生成AIを活用しながら、知財コンサルティングやIPランドスケープなど、より戦略的な領域へサービスを広げていることにも、同じ流れを感じました。

AIができることが増えるからこそ、人にしか蓄積できない経験や、そこから生まれる判断の価値も改めて問われるのだと思います。

AIを使いながら、人をどう育て、経験をどう残すか

もう一つ、今回考えさせられたのが人材教育です。

AIが便利になったからといって、誰でも同じように知財業務を行えるわけではありません。

何を調べるのか。
結果のどこを見るのか。
AIが出した内容をどこまで信頼するのか。
不足している情報は何か。
その結果を事業にどう結びつけるのか。

こうした判断には、知財だけでなく、技術や製品、事業への理解が必要です。

そのため、AIの操作方法を教えるだけでは十分ではありません。

問いを立てる力。
技術を理解する力。
事業と結びつける力。
AIの結果を疑い、確認する力。

こうした力を、AIを使いながらどう育てていくか。これからの人材教育では、そこまで考える必要があるように感じました。

同時に考えたのが、これまで担当者が積み重ねてきた経験をどう残すかということです。

「なぜ、この技術を発明として拾ったのか」
「なぜ、この調査をしたのか」
「なぜ、この結果に違和感を持ったのか」
「なぜ、この方針を選んだのか」

完成した資料だけを残しても、こうした判断の背景まではなかなか伝わりません。

AIを活用するために業務や判断の流れを整理することは、これまで個人に蓄積されてきた経験を言語化し、次の担当者へ引き継ぐことにもつながります。

決して新しい話ではありませんが、今回あらためて、結局はここに尽きるのではないかと感じました。

そして、その土台として、これから知財を担当する人には、自社の技術や製品を理解し、できれば好きになってほしいと思います。

「この技術を守りたい」
「この製品を育てたい」

そう思えるからこそ、発明や権利を見るだけではなく、それを事業にどうつなげるかまで考えられるのではないでしょうか。

AIの現在地を見に行って、自分たちの現在地を考えた

今回のフェアで一番考えさせられたのは、どのAIを使うかではなく、AIを使いながら、自分たちの知財業務をどう組み立てていくかということでした。

専用AIをどこで使うのか。
汎用AIをどこで活用できるのか。
人が判断すべきところはどこなのか。

それを考えるためには、まず自分たちの業務や判断の流れを整理する必要があります。

そして、その先には、

知財担当者が何に時間を使うのか。
AIを使いながら、人をどう育てるのか。
これまで積み上げてきた経験を、どう次へ残していくのか。

という問いがあります。

今回のフェアは、新しいAIやサービスを知るだけではなく、これから自分たちの知財業務をどうしていきたいのかを考えるきっかけになったように思います。

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