キャリアは、計画どおりには進まない
私は二十年以上、主に化学・バイオ分野の特許実務に携わり、現在は特許事務所のパートナーを務めています。こう書くと、一つの目標に向かって順序よく歩いてきたように見えるかもしれません。しかし実際には、学生時代の経験、人との出会い、思いがけず任された仕事、組織の混乱、病気と入院など、事前には予想できなかった出来事によって、進む方向は何度も変わりました。
キャリアについて考えるとき、私たちは「十年後の目標を決め、そこから逆算する」ことを求められがちです。もちろん計画は必要です。しかし、人生には計画できないことの方が多い。計画と違う場所に着いたからといって、道を誤ったとは限りません。
この感覚に近いのが、Planned Happenstance(計画された偶然)理論です。この理論は、偶然をただ待つのではなく、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心を持って行動し、予期しない出来事を学びや機会へ変えていくという考え方です。大切なのは、未来を完全に予測することではなく、偶然が入ってこられる余地をつくり、それを受け取れる自分でいることです。
これは「すべての出来事には意味がある」と苦境を美化する考え方ではありません。病気や失敗、拒絶など、望んでいない偶然は確かにあります。すぐに前向きな意味を見いだす必要もありません。それでも、出来事の後に何を学び、誰に相談し、次にどの小さな行動を選ぶかには、自分が関与できます。偶然そのものは選べなくても、偶然との付き合い方は少しずつ選べる。その程度の慎ましい能動性が、私にはしっくりきます。
振り返ると、軸はすでにあった
若い頃の私は、専門性を高めること、難しい案件を担当すること、責任ある立場に就くことを、キャリアの前進だと考えていました。それらは今も大切です。ただ、過去を振り返ると、役職や業務分野よりも長く続いているものがありました。
発明者がまだ十分に言葉にできていない技術の価値を整理する。挑戦する企業の可能性を、知的財産という形で守る。若い実務家が迷っているときに、一緒に次の一歩を考える。私は、自分が主役になることよりも、誰かが力を発揮するための土台をつくるときに、仕事の意味を強く感じてきました。
そこでようやく、自分の軸は「挑戦する人を支えること」だったのだと気づきました。軸は、最初に見つけてから歩き始めるものとは限りません。選択や偶然を重ねた後で、自分が繰り返し選んできたものに名前を付けることもあります。
強みが、自分を追い詰めることもある
もっとも、「支えたい」という思いは、使い方を誤ると自己犠牲に変わります。周囲の困りごとに気づき、自分が引き受ければ早いと考える。相手の事情は丁寧にくみ取る一方、自分の負担や意図は言葉にしない。正しく働いていれば、いつか分かってもらえると思う。
私自身、仕事上の大きな挫折と病気を経験し、現在も定期的に入院しています。その過程で、責任感があることと、何でも背負うことは違うと学びました。強みは、量を増やせばよいものではありません。どこから弱みに変わるかを知り、自分の力を身体の中にためず、言葉や協働へ流す必要があります。
また、体調のよい自分だけを前提に将来を描くこともやめました。悪い週でも続けられるか。不在になっても大切なものが残るか。仕事だけでなく、健康や家族との関係を含めて考えられるか。いまの私にとって、キャリアは人生から切り離された階段ではなく、生活全体の設計です。
自分の軸を考えるために
自分の軸が分からないとき、立派な理念を無理に作る必要はありません。まず、これまでの出来事を振り返ってみるとよいと思います。
どんな仕事をしたとき、嬉しかったか。何に強い違和感を覚えたか。誰の役に立てたとき、自分らしいと感じたか。何を犠牲にする働き方は、もう繰り返したくないか。そして、思いがけない出会いや依頼に対し、自分はどのように動いたか。
さらに、これからの偶然を増やすために、少しだけ行動してみる。専門外の話を聞く。依頼された小さな役割を一度引き受けてみる。関心のある人に連絡する。うまくいかなければ方向を変える。軸を持つことは、可能性を狭めることではなく、新しい出来事を選ぶ際の判断基準を持つことです。
計画は必要です。しかし、計画どおりであることを人生の成功条件にしなくてよい。自分の軸を持ちながら、偶然が運んでくる新しい可能性にも開かれていること。その両方を大切にしながら、軸そのものも人生に合わせて書き換えていく。そんなキャリアを、私はこれからも歩きたいと思っています。
※Planned Happenstance理論については、Mitchell, Levin & Krumboltz(1999)を参照。

弁理士(化学/バイオ系)/薬剤師(千葉薬首席)/法学士(中大通教) ブティック系弁理士法人共同経営「弁理士は世界を変える人を支える人」 千葉大学&宮崎大学大学院非常勤講師/英検準1級/TOEIC900/数検1級/統計検定2級/G検定 物理・数学好き 2児の父 推し活はJLPGAツアー




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