プレーヤーとしての成功が、マネジャーとしての失敗を生む
私は長年、弁理士として、案件の品質を高めることに力を注いできました。依頼された仕事に責任を持ち、難しい案件から逃げない。それを積み重ねれば、周囲からも信頼され、組織にも貢献できると考えていました。
プレーヤーとしては、それで一定の成果を上げられたと思います。しかし、マネジメントでは、同じ方法が通用しませんでした。
問題を見つけると、自分で直す。仕事が遅れていれば、自分が引き取る。意見がまとまらなければ、自分の中で整理し、結論を示す。自分が動けば、仕事は前に進みます。
けれど、それを続けると、周囲からは、なぜ私がその判断をしたのかが見えません。組織のためのつもりでも、他の人から見れば、仕事を一人で抱え、結論を先に決め、周囲が関与する余地を狭めているようにも映ります。
私は、仕事の品質を守ることと、人と組織を動かすことを、長い間混同していました。
「分かってもらえるはず」という失敗
過去に、組織内の評価で厳しい批判を受けたことがあります。自分としては、体調や家庭の事情を抱えながらも、見えないところで多くの仕事を引き受け、事務所の品質を守ってきたつもりでした。
しかし、その意図や事情を、私はほとんど説明していませんでした。
正しく働いていれば分かってもらえる。結果を出していれば、事情まで話さなくてもよい。自分から貢献を語るのは格好が悪い。そんな考えがあったのだと思います。
ところが、説明されていない行動には、周囲がそれぞれの解釈を与えます。早く帰る事情を知らなければ、「責任を果たしていない」と見えるかもしれない。見えないところで仕事を引き取っても、それが共有されていなければ、別の受け取り方をされることもあります。
後から考えれば、周囲の誤解だけを責めることはできません。私は、発明者の考えや技術を他者に伝わる言葉へ翻訳することを職業にしていながら、自分自身の意図や状況については、翻訳を怠っていました。マネジメントにおける沈黙は、謙虚さとは限りません。必要な情報を共有せず、相手に推測を委ねている面もあります。
ただ、その評価が行われた直後、二人の所員が、周囲の厳しい空気を感じながらも、「この事務所の品質を作り、守ってきてくれた」と私に伝えてくれたことがありました。それを聞いた私が何と答えたのかは、もう覚えていません。ただ、何とも言えない温かい気持ちになったことだけは、今でも覚えています。
その言葉を聞いたからといって、私への批判がすべて誤りになるわけでも、自分の働き方に問題がなかったことになるわけでもありません。それでも、厳しい空気の中で私の仕事を見てくれていた人がいたこと、そして、それを心の中にとどめず、直接伝えてくれたことを、私は今でも忘れずにいます。
評価は、一つの集計結果だけではできていません。その背後には、異なる経験や関係があり、人によって見えていたものも違います。だからこそ、強い意見や多数の声だけで人を決めつけず、異なる角度からその人の仕事を見る必要があります。
また、誰かの貢献に気づいたなら、必要なときに本人へ言葉として伝えることにも意味があります。二人の言葉は、そのことを私に教えてくれました。
寄り添うことと、背負うこと
私は、困っている人の話を聞くことを大切にしてきました。しかし、相談を受けた私が、その人に代わって問題を整理し、経営側へ伝え、自分の中で受け止め続けると、相談は私のところに集まっても、正式な担当者や会議に声が届く仕組みは育ちません。
結果として、私は現場と経営の間の緩衝材になります。表面上の衝突は減っても、組織が問題そのものに向き合わなくて済むため、構造は変わりません。
人に寄り添うことと、代わりに背負うことは違います。必要なのは、すべての声を自分が運ぶことではなく、本人が安全に話せる経路や、組織として問題を扱える場をつくることです。この違いに気づくまで、時間がかかりました。
マネジメントは、自分を減らす仕事
これまでの失敗から、マネジメントとは、自分の正しさを証明することでも、自分が多くの問題を解決することでもないと考えるようになりました。
問題を適切な場所に置く。関係する人が、自分の言葉で話せるようにする。問いは示しても、答えを一人で所有しない。仕組みを考えても、その運営まですべて引き受けない。
また、成果が見えやすい人だけでなく、日常的に品質を支え、周囲の仕事を補い、言葉にしないまま組織を守っている人を見ることも大切です。その貢献に気づき、必要な言葉で返すことも、マネジメントの一部だと思います。
マネジメントとは、自分の影響力を増やす仕事というより、自分がいなくても回る部分を増やし、一人ひとりの仕事が正しく見える条件を整える仕事なのかもしれません。
私はまだ、その途中にいます。それでも、自分が過去にどのように失敗したかを言葉にすることは、同じ失敗を繰り返さないための、最初の仕組みになるのではないかと思っています。

弁理士(化学/バイオ系)/薬剤師(千葉薬首席)/法学士(中大通教) ブティック系弁理士法人共同経営「弁理士は世界を変える人を支える人」 千葉大学&宮崎大学大学院非常勤講師/英検準1級/TOEIC900/数検1級/統計検定2級/G検定 物理・数学好き 2児の父 推し活はJLPGAツアー




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